「高い声を出そうとすると苦しくなる」「カラオケで好きな曲のサビが歌えない」——そんな悩みを抱えていませんか?
高音が苦しいのは、才能やセンスの問題ではありません。喉の使い方に原因があり、正しいトレーニングで改善できます。
この記事では、声の科学研究に基づいて「高音が苦しくなるメカニズム」と「楽に高音を出すための具体的なコツ」をお伝えします。
高音が苦しくなる3つの主な原因
まず、なぜ高音を出すと苦しくなるのかを理解しましょう。原因を知ることが改善の第一歩です。
1. 喉仏が上がりすぎている(ハイラリンクス)
高い音を出そうとすると、喉仏(喉頭)が必要以上に上がってしまうことがあります。これを「ハイラリンクス」と呼びます。
喉仏が上がると声の通り道(咽頭)が狭くなり、息の流れが妨げられます。その結果、声が詰まったように感じたり、喉に痛みを感じたりします。
声の科学の第一人者であるSundbergの研究(1987)によると、喉頭の垂直位置は声道の共鳴に大きく影響します。喉頭が過度に上昇すると咽頭空間が圧縮され、共鳴が制限されるだけでなく、より多くの筋肉のエネルギーが必要になります。
また、Titze(2007, Journal of Singing)は、ベルティング(力強い高音発声)において多少の喉頭上昇は音響的に有利に働く一方、コントロールされていない過度な上昇は声帯組織を硬化させ、声の緊張を引き起こすと指摘しています。
2. 換声点(ブレイク)をうまく越えられていない
人の声には「地声」と「裏声」の切り替わりポイントがあり、これを換声点(ブレイク)と呼びます。
換声点付近の音域では声が不安定になりやすく、無理に地声で押し上げようとすると喉に大きな負担がかかります。「サビの一番高い音だけ苦しい」という方は、換声点の扱い方に課題があるケースが多いです。
声の「ブレイク」は、2つの筋肉の主導権交代によって起こります。地声を担当する甲状披裂筋(TA筋)と、裏声を担当する輪状甲状筋(CT筋)です。
Kochis-Jennings ら(2014, Journal of Voice)の筋電図研究では、TA筋が優位な発声は胸声レジスターでのみ観察され、300Hz以上ではCT筋の活動が優位になることが確認されました。トレーニングされていない歌手では、この筋肉の切り替えが急激に起こるため、声が「割れる」現象が生じます。
3. 息の支え(腹圧)が足りない
高音は低音よりも多くの息のエネルギーを必要とします。しかし、お腹からの息の支えが弱いと、そのエネルギー不足を喉の力みで補おうとしてしまいます。
これが「力んでいるのに声が出ない」という悪循環の正体です。腹圧がしっかりかけられると、喉に頼らなくても十分な息の圧力を声帯に届けることができます。
Sundbergの研究(1987)によると、声門下圧(声帯の下の空気圧)は、静かな歌唱で約5〜10cmH2O、力強い歌唱では20〜40cmH2Oに達します。声門下圧が1cmH2O上がるだけで基本周波数が約4Hz変化するため、息のコントロールは音程の安定性に直結します。
Traser ら(2021)の動的MRI研究では、歌唱中の横隔膜と胸郭が独立した制御ユニットとして機能することが確認されました。声門下圧の不足を喉の締め付けで補おうとすると、押し付けたような苦しい発声になります。
高音が楽になる5つのボイトレ法
原因がわかったところで、具体的な改善方法を見ていきましょう。どれも自宅でできるトレーニングです。
1. リップロールで力みを抜く
リップロール(唇をブルブル震わせながら発声)は、喉の脱力と息のコントロールを同時に鍛えられる万能エクササイズです。声の科学では「半閉鎖声道(SOVT)エクササイズ」と呼ばれ、多くの研究で効果が実証されています。
- 唇を軽く閉じ、息を吐いて唇を振動させる
- 振動を保ったまま「ドレミファソ〜」と音階を上げていく
- 高音域まで上がっても、喉に力が入らないことを意識する
リップロールは喉が力むとすぐに止まってしまうので、力みのチェッカーとしても優秀です。毎日5分続けるだけで、喉の脱力感覚が身についてきます。
Titze(2006, Journal of Speech, Language, and Hearing Research)の研究によると、リップロールのような半閉鎖声道エクササイズは、声道内の慣性リアクタンスを高め、声帯振動を補助する効果があります。これにより発声開始に必要な圧力(発声閾値圧)が下がり、より少ない力で声が出せるようになります。
Mendes ら(2019, Journal of Voice)は、たった3分間のリップロールで声域が拡大し、発声障害重症度指標が改善することを確認しました。また、Kapsner-Smithら(2015)のランダム化比較試験では、リップロール群が他の方法より良好な改善を示しています。
2. ため息発声で「楽な高音」の感覚をつかむ
「はぁ〜」とため息をつくとき、喉はとてもリラックスしています。この感覚を利用します。
- まず普通にため息をつく
- 次に、ため息の途中から少しずつ声にしていく
- 慣れてきたら、ため息の延長で高い音まで上げてみる
ポイントは「頑張って出す」のではなく「抜いて出す」感覚です。最初は弱々しい声でもOK。力みなく高音に到達できる感覚を体に覚えさせることが大切です。
3. 裏声から攻める
地声で高音に苦しんでいる方は、まず裏声でその音域を楽に歌えるようにしましょう。
- 裏声で苦しい音域の曲を歌ってみる
- 楽に出せたら、少しずつ地声の要素を混ぜていく
- 「裏声っぽい地声」のバランスを探る
裏声は喉への負担が少なく、CT筋(高音を担当する筋肉)を鍛えるのに最適です。裏声のコントロールが上手くなると、換声点の移行がスムーズになり、地声の高音も格段に楽になります。
4. 首・肩のストレッチ
意外と見落とされがちですが、首や肩の凝りは喉の力みに直結します。喉頭は顎・舌骨・胸骨をつなぐ筋肉群に吊り下げられており、これらが緊張すると喉頭の自由な動きが制限されます。
- 首をゆっくり左右に倒す(各15秒)
- 肩を大きく前後に回す(各10回)
- 顎を大きく開け閉めする(10回)
- 舌を思い切り前に突き出す→引っ込める(5回)
特にデスクワークが多い方は首肩が固まりやすく、それが歌にも影響します。カラオケ前のルーティンとして取り入れてみてください。
Shembel ら(2023, The Laryngoscope)は、超音波エラストグラフィを使って筋緊張性発声障害(MTD)患者の外喉頭筋の硬さを客観的に計測し、首周りの筋肉の緊張が発声障害と直接関連することを示しました。
さらにTate ら(2022, Journal of Voice)は、従来のボイスセラピーに首・頸椎の理学療法を組み合わせると、ボイスセラピー単独よりも良好な改善結果が得られることを実証しています。首や肩の緊張は「気の持ちよう」ではなく、物理的に声に影響する問題なのです。
5. 音域を「少しずつ」広げる
高音を改善するとき、いきなり原曲キーに挑戦するのは避けましょう。
- まずはキーを2〜3下げて、楽に歌える状態を作る
- 楽に歌えるようになったら、半音ずつキーを上げる
- 苦しくなるポイントの「手前」で練習を重ねる
音域は1日で広がるものではありません。毎日少しずつ、苦しくならないギリギリのラインで練習するのが安全かつ効果的な方法です。
カラオケで今すぐ使えるテクニック
トレーニングには時間がかかりますが、カラオケで「今すぐ」楽に歌うためのコツもあります。
キー設定を最適化する
最も簡単で効果的な方法はキーを調整することです。「原曲キーで歌わなきゃ」と思い込んでいる方が多いですが、プロの歌手でさえライブではキーを変えることがあります。
自分が一番気持ちよく歌えるキーを見つけることは、恥ずかしいことではなく、むしろ音楽的に正しい判断です。
マイクの持ち方を見直す
マイクを口に近づけすぎると声がこもり、離しすぎると声量が必要になって力みやすくなります。口から拳1つ分くらいの距離がベストです。高音部分ではやや近づけると、無理に声を張らなくても聴こえるようになります。
水分補給を忘れない
声帯は粘膜で覆われており、乾燥すると振動効率が落ちます。カラオケでは常温の水をこまめに飲み、喉の潤いを保ちましょう。冷たい飲み物やアルコールは喉の血管を収縮させるので避けるのがベターです。
まとめ
高音が苦しいのは「喉に頼りすぎている」ことが根本的な原因です。改善のポイントをおさらいしましょう。
- 喉仏の位置を安定させる(ハイラリンクス対策)
- 換声点をスムーズに乗り越える練習をする
- 腹圧で息を支え、喉の負担を減らす
- リップロールやため息発声で脱力の感覚を身につける
- 無理せず少しずつ音域を広げる
どの原因も、科学的に理解し正しい方法で練習すれば改善できます。焦らず、一歩ずつ取り組んでみてください。
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