高い声を出すとき、喉がギュッと上がって苦しくなる。
カラオケでサビに差し掛かると声が詰まる。
こんな経験はありませんか?
これは「ハイラリンクス」と呼ばれる状態で、多くの人が悩むポイントです。今回は海外の声楽研究も参考にしながら、原因と改善方法を詳しく解説します。
ハイラリンクスとは?
ハイラリンクス(High Larynx)とは、文字通り喉頭(喉仏のある部分)が高い位置にある状態のことです。
喉頭の位置は声の響きに直結します。
- 喉頭が高い → 声道(声の通り道)が短くなり、高い周波数が強調される
- 喉頭が低い → 声道が長くなり、低い周波数が強調される
声道(Vocal Tract)とは、声帯から唇までの空間のことです。管楽器の管に相当する部分で、この長さや形状によって声の音色が決まります。
喉頭の位置を変えると声道の長さが変わるため、同じ声帯の振動でも全く違う響きになります。
ハイラリンクスは「悪」ではない
ここで重要な注意点があります。
ハイラリンクス自体が悪いわけではありません。
喉頭が上がること自体は自然な生理現象です。問題なのは「過度に上がりすぎて」苦しくなることです。
海外の声楽研究者Ingo Titze博士の研究によると、ベルティング(地声で力強く高音を出す技法)では喉頭が高い位置にあることがわかっています。ポップスやロックではむしろ自然な状態なのです。
Titze, I.R. (2007). "Belting and a High Larynx Position" - Journal of Singing
また、MRI(磁気共鳴画像)を使った研究では、クラシックの歌手でさえ高音では喉頭が自然に上がることが確認されています。
2024年にJournal of Voiceに発表されたIkävalkoらの研究では、オペラ・Kulning(北欧の伝統歌唱法)・Edge(エッジの効いた歌唱法)の3スタイルで声道の形状を比較しました。
- Edge:喉頭の位置が最も高く、咽頭が最も狭い
- オペラ:喉頭が最も低く、舌と口蓋の距離が広い
つまり、ジャンルによって「正しい」喉頭の位置は違うのです。ポップスやロックで喉頭がある程度高いのは自然なこと。
Ikävalko et al. (2024). "Three Professional Singers' Vocal Tract Dimensions" - Journal of Voice
問題になるのは「過度な」ハイラリンクス
では、何が問題なのでしょうか?
それは喉頭が上がりすぎて、首周りの筋肉が過度に緊張する状態です。
この状態では:
- 声が詰まった感じになる
- 高音が苦しくて出ない
- 声がひっくり返りやすい
- 歌い終わると喉が痛い
ハイラリンクスの原因
1. 高い音を「頑張って」出そうとしている
高音を出すとき、力んで押し上げようとすると喉頭も一緒に上がります。これは「高い=上」という感覚的な連動によるものです。
2. 舌の付け根が緊張している
舌の付け根(舌根)は喉頭と繋がっています。舌根が緊張すると、喉頭も引き上げられてしまいます。
舌骨(ぜっこつ)という骨が、舌と喉頭の間にあります。舌の筋肉と喉頭を動かす筋肉は、この舌骨を介して繋がっています。
そのため、舌に力が入ると喉頭も一緒に動いてしまうのです。「喉を開けて」と言われて舌を奥に引っ込めると、かえって喉頭が上がることがあるのはこのためです。
3. 姿勢が悪い
猫背や顎を前に突き出した姿勢は、首周りの筋肉を緊張させます。これも喉頭を不自然に押し上げる原因になります。
4. 息の使い方が非効率
息の圧力だけで高音を出そうとすると、喉頭が上がりやすくなります。声帯の振動と息のバランスが大切です。
ハイラリンクスを改善するトレーニング
1. あくびの感覚をつかむ
あくびをすると喉頭が自然に下がります。この感覚を覚えておいて、歌う前に「半あくび」をするようにしましょう。
ポイント:完全なあくびだと喉頭が下がりすぎます。口を開けすぎず、喉がフワッと広がる感覚だけを取り出します。
2. リップロール・タングトリル
唇や舌を振動させながら音程を上下させる練習です。力みが入ると振動が止まるので、リラックスした状態で高音を出す感覚が身につきます。
3. 「ング」で歌う
「ング(ng)」という音は喉頭が安定しやすい音です。好きな曲を「ングングング...」で歌ってみてください。高音でも喉が楽な感覚がつかめます。
4. 首・肩のストレッチ
歌う前に首を回したり、肩を上げ下げしたりして、首周りの筋肉をほぐしておきましょう。緊張していると喉頭が上がりやすくなります。
クラシック声楽では「喉頭を下げろ」という指導がよくあります。しかし、ポップスやロックでは逆効果になることも。
Complete Vocal Instituteの研究者Lisa Popeilによると、現代のポピュラー音楽では喉頭が「中間位置」で自由に動ける状態が理想的とされています。
上げすぎも下げすぎも良くない。自然に「浮いている」状態を目指しましょう。
声楽研究では、健康的なベルティングと過緊張性の発声(ハイパーファンクション)が比較されています。
両者には「喉頭が高い」「咽頭が狭い」という共通点がありますが、決定的な違いがあります:
- 健康的なベルティング:口と顎を大きく開き、口腔に十分なスペースがある
- 過緊張な発声:口の開きが小さく、全体的に窮屈
ポイントは口や顎をしっかり開けているかどうか。喉頭が高くても、口腔に十分な空間があれば声帯への負担は少ないとされています。
ミックスボイスとハイラリンクス
ミックスボイスを習得すると、ハイラリンクスの問題は大幅に改善されます。
なぜなら、ミックスボイスは地声と裏声をバランスよく混ぜる技術だからです。地声だけで高音を押し上げようとすると喉頭が上がりますが、裏声の要素を混ぜることで力みが減り、喉頭も安定します。
まとめ
ハイラリンクスは多くの人が経験する問題ですが、正しいトレーニングで改善できます。
- ハイラリンクス自体は「悪」ではない
- 問題なのは「過度に」上がって苦しくなること
- 原因は力み、舌根の緊張、姿勢、息の使い方
- あくび、リップロール、「ング」で改善できる
- ミックスボイスの習得で根本解決
焦らず、リラックスした状態で練習を続けてみてください。