裏声って言われると、高い声をイメージしますよね。

でも実は、裏声の「低いところ」をどれだけ安定して出せるかが、ミックスボイスを手に入れるための最も大切な基礎練習なんです。

裏声を低くしても「ひっくり返らない」土台を作る

裏声で高い音を出すのは、比較的簡単です。でも、そこから少しずつ音を下げていくと……どこかで急に地声に「パタン」と切り替わってしまう。この経験、ありませんか?

この「パタン」が起きるということは、裏声の筋肉と地声の筋肉がうまく協調できていないということです。

低いところまで裏声をキープできる=二つの筋肉が協調して働いている状態。これが、いわゆるミックスボイスの土台になります。

僕はこの感覚を「根を張る」という言葉で表現しています。裏声という木の幹を支える根っこを、低音域までしっかり広げていくイメージです。

声帯で何が起きているのか

少しだけ、声帯の仕組みを見てみましょう。歌声に関わる主な筋肉は二つあります。

  • CT(輪状甲状筋)— 声帯を引き伸ばして薄くする。裏声を作る筋肉。
  • TA(甲状披裂筋)— 声帯を短く厚くする。地声を作る筋肉。

ミックスボイスとは、この二つが同時にバランスよく働いている状態です。

ここで重要なのが、TAの内側にある声帯筋(vocalis)という部分。これが裏声の中で「閉鎖」——つまり声帯の縁をしっかり合わせる力——を生み出します。

裏声で低い音を出そうとすると、CT(裏声の筋肉)だけでは声を維持できなくなります。そこで声帯筋が少しずつ参加して、声帯の縁を閉じてくれる。この過程で喉が上がって苦しくなる場合は、別の問題を先に解消する必要があるかもしれません。

これがまさに、ミックスボイスの土台が作られる瞬間です。裏声のフレームワークの中で、地声系の筋肉が協調的に働き始める。この感覚を低音域で掴むことが、すべての出発点になります。

発声研究の権威フレデリック・フースラー(Frederick Husler)は、著書の中で声帯筋を育てるための順序を示しています。

  1. 地声と裏声をしっかり分離する— まず混ぜない。それぞれを独立して使えるようにする。
  2. 裏声を鍛えて安定させる— 裏声系の筋肉の基礎体力をつける。
  3. 裏声の低音域で母音を発声する— 音質が歪まないこと、喉締めが起きないことが条件。

3番目のステップがまさに、この記事で解説している「裏声の低い声」の練習です。裏声の低音を息漏れなく発声していく過程で、声帯筋(vocalis)が自然に鍛えられていきます。

フースラーとリード(Cornelius Reid)という二人の発声学の権威は、共に「声帯筋こそミックスボイスに必須の筋肉」と明言しています。

📚 Husler, F. & Rodd-Marling, Y. (1965). Singing: The Physical Nature of the Vocal Organ. Faber & Faber.

実際にどんな練習をするのか

やることはシンプルです。

  1. 楽に出せる高さで、裏声を「フー」と出す
  2. そのまま、少しずつ音を下げていく
  3. 地声に切り替わらないように、裏声のままキープ
  4. できるところまで下がったら、そこで数秒キープ
ポイントは「地声にならないこと」。低くしていくと、どこかで声が太く変わる瞬間があります。それが地声に切り替わった瞬間。その手前で踏みとどまる感覚を掴んでください。

これができるようになったら、次のステップがあります。

息の漏れたフワッとした裏声ではなく、芯のある、しっかり閉鎖した裏声を出す練習です。

最初はちょっと変な声に聞こえるかもしれません。志村けんのあの声、と言えば伝わるでしょうか(笑)。でもあの感覚の中で、まさに声帯筋が裏声の中で働いているんです。

言葉で説明するとこうなりますが、実際にやってみると「これで合ってるの?」「どこまで閉鎖していいの?」となるかもしれません。

練習音源で実際にやってみよう

うたの教科書の練習音源ページに、まさにこの練習に対応した音源があります。

  • ファルセット+エッジ— 裏声にエッジ(閉鎖)を少しずつ加えていく練習
  • ファルセット(強)— しっかり閉鎖した裏声を出す練習

ちょっと変わった音源ですが、音に合わせてやってみると、言葉だけでは掴めなかった感覚が体で理解できるはずです。

発声の基礎から表現のコツまで体系的に学べるうたの教科書と合わせて、ぜひ取り組んでみてください。

🎵 練習音源で試してみる

ファルセット・エッジの音源で、閉鎖した裏声の感覚を掴もう

練習音源ページへ →

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