高音を出そうとすると声がひっくり返る。カラオケで恥ずかしい思いをした...
こんな経験、ありませんか?
実はこれ、ボイストレーニングで最も多い悩みの一つです。そして、正しい練習をすれば必ず克服できます。
声が裏返る原因は「喚声点」にある
地声で楽に出せる音域には限界があります。この地声と裏声の境目を「喚声点(かんせいてん)」と言います。英語では「パッサージョ(passaggio)」とも呼ばれます。
一般的な喚声点の位置:
- 男性:ミ(mid2E)あたり
- 女性:シ(hiB)あたり
この音域に差し掛かると、地声の筋肉だけでは対応できなくなり、裏声の筋肉に急に切り替わってしまう。これが「声が裏返る」現象の正体です。
声の高さを変えるとき、2つの筋肉群が関わっています。
- 甲状披裂筋(TA)・声帯筋:低音域を担当(地声)
- 輪状甲状筋(CT):高音域を担当(裏声)
声が裏返る瞬間、TAの活動が急激に減少し、CTが急に機能し始めます。この「急激な切り替わり」が、あの不快な裏返り音の正体です。
また、音程が上がると声道(口や喉の空間)の共鳴パターンが変化しようとします。母音の形を調整しないと、この共鳴が「ジャンプ」して裏返りが起きやすくなります。
参考: Vocalist.org.uk "Passaggio - An Introduction to Vocal Transition Points"
私の経験:突然裏返るようになった時期
僕自身も一時期、喚声点より少し上のF#くらいの音が連続すると、意図せず裏返るという状態が続きました。
「声帯に問題があるのでは?」と心配になり耳鼻科を受診しましたが、結果は異常なし。
原因は単純に「出し方の問題」でした。
声が裏返る人と裏返らない人の違い
「私は地声でどこまでも高音が出ます!」という人もいますよね。
実は彼らも、厳密には地声と裏声の筋肉を両方使っています。違いは、その切り替えを無意識にスムーズにできているかどうか。
この「地声と裏声をスムーズに混ぜる」技術が、いわゆるミックスボイスです。
喚声点の位置には個人差がある
研究によると、喚声点が現れる位置はB♭からF#の範囲で、3〜7半音の幅があります。自分の「危険ゾーン」がどこにあるか把握することが大切です。
声が裏返るのを治す練習法
1. まず裏声を強化する
地声ばかり使っている人は、裏声の筋肉が弱いことが多いです。
- 毎日5分、裏声だけで歌う練習をする
- 「フー」という息混じりの裏声から、徐々に芯のある裏声を目指す
2. 喚声点付近をゆっくり行き来する
地声から裏声へ、裏声から地声へ、ゆっくりスライドする練習をします。
- サイレン(救急車)のような音で、低い音から高い音へ滑らかに上がる
- 急に切り替わる感覚があったら、そこが喚声点
- その周辺を特に丁寧に、何度も行き来する
3. 母音を調整する
高音で「ア」のまま押し通そうとすると裏返りやすくなります。
- 高音に向かうにつれて、母音を少し変える(例:「ア」→「オ」寄りに)
- 口の中の空間を縦に開けるイメージ
- これを「母音修正(vowel modification)」と呼びます
4. 力を抜いて歌う習慣をつける
高音で力んでしまうと、余計に裏返りやすくなります。
- 「高い音を出す」より「高い音を抜く」イメージ
- 頑張って押し出すのではなく、息の流れに声を乗せる
喚声点付近での無理は禁物
喚声点付近で長時間重く歌い続けると、経験豊富な歌手でも声帯疲労を起こします。この音域では音量を下げ、軽く通過する意識を持ちましょう。
どのくらいで治る?
個人差はありますが、毎日15分の練習を続ければ、1〜3ヶ月で変化を感じられる方が多いです。
ポイントは「急がない」こと。喚声点の克服は、筋肉のバランスを整える作業なので、地道な反復が大切です。
まとめ
声が裏返るのは、才能の問題ではありません。地声と裏声の筋肉バランスを整え、母音を調整する技術を身につければ、誰でも克服できます。
焦らず、毎日少しずつ練習を続けてみてください。