新曲の決め方を、人気投票にしなかった理由。

J-POP JAMというセッションイベントを、もう何年もやっています。誰でも入れる、J-POPをみんなで演奏する場です。そこには「この曲はみんなでやれる」という曲のリストがあって、いま82曲。このリストに新しい曲をどう足していくか——今回、その仕組みを作りました。今日はそのリリースのお知らせと、設計するときに一番悩んだことの話をさせてください。

一番悩んだのは、シンプルな問いです。なぜ人気投票にしなかったのか??

多数決は、いちばん簡単で、いちばん危ない

新曲を決めるなら、投票が一番手っ取り早いんです。候補を並べて、みんなにポチッと押してもらって、票が多い曲を採用する。公平に見えるし、運営も楽だし、誰からも文句が出ない。

でも、実際にセッションの現場に立ち続けてきた身として、どうしても引っかかることがありました。

投票で勝つのは、もうみんなが知っている曲なんです。当たり前ですよね。知らない曲には投票できないんだから。つまり人気投票は「すでに有名なものが、さらに強くなる」仕組みです。有名だから票が入る、票が入るからリストに載る、リストに載るからもっと有名になる。どこかで聞いたことのある構造だと思いませんか??お金が集まるところにお金が集まっていく、あの構造と同じです。

僕たちがやりたかったのは、その逆でした。

曲リストは、ランキングじゃなくて共通言語

そもそも、なんのためのリストなのか。ここが決め方を決める前に、一番はっきりさせたかったところです。

J-POP JAMのリストは、名曲ランキングではありません。あれは今夜はじめて会った人と、音で会話するための共通言語です。初対面のギターの人とベースの人が、譜面を開いた瞬間に一緒に演奏を始められる。そのために「お互いが持っている言葉」を揃えておく。リストの正体はそれだけなんです。

だから、リストに載るべき曲の条件は「人気があること」ではなくて、「知らない人同士が、実際にこの曲で繋がれたこと」になります。

これ、似ているようでぜんぜん違う基準なんです。カラオケの年間ランキングや再生回数は「その曲がどれだけ知られているか」を証明してくれます。でも「その曲で、初対面の人間同士のセッションが成立するか」は教えてくれません。イントロは誰が出すのか、キーはどうするのか、サビで全員が上がれるのか。そういうことは、現場でやってみないと分からない。

いまの82曲は、何年ぶんもの実際のセッションで「繋がれた」実績のある曲たちです。言ってみれば、全部が実地検証済み。僕はこのリストを、ちょっとしたデータベースより信頼しています。

だから、新曲も「現場」で決めることにした

今回作った仕組みの中身を細かく説明するのはやめておきますが、思想だけ言うと、投票箱ではなくセッションの現場に決めてもらう形にしました。候補曲は実際に場で音を出してみて、そこで起きたことをもとにリストへ入れていく。デモクラシーというより、料理の味見に近いやり方です。

正直に言うと、この仕組みがうまく回るかどうかは、まだ分かりません。始めたばかりですから。ただ、「多数決の数字」ではなく「その場で鳴った音」を根拠にする、という順番だけは間違っていないと思っていて、ここは時間をかけて検証していくつもりです。

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経済学には、上位のわずかな勝者に人気と報酬が集中していく「スーパースター経済」と呼ばれる議論があるそうです。ランキングや再生回数のような一本のものさしで全員を測ると、この集中はさらに加速すると言われています。人気投票をやめるというJ-POP JAMの選択は、小さな場のなかでこの構造をそのまま持ち込まないための、ささやかな抵抗でもあります。

1000曲で十分、という文化

もうひとつ、リストの裏にある考え方を書いておきます。

音楽の世界には「知っている曲が多いほど偉い」という空気が、わりと根強くあります。あの曲も知らないの??というあれです。僕はあの空気が、あまり好きではありません。曲の知識でマウントを取り合う場からは、音楽の一番おいしいところが逃げていくと思っていて。

J-POP JAMで言い続けているのは、逆のことです。何でもかんでも覚える必要はない。1000曲あれば十分。 いや、本当のことを言うと、82曲でもう相当に楽しい。大事なのは持ち歌の数ではなくて、その持ち歌で誰と繋がれたか、のほうなんです。

リストをむやみに増やさないのも同じ理由です。リストが1万曲になったら、それはもう共通言語ではなくて、ただの辞書です。辞書を丸暗記した人同士の会話が面白いかというと、たぶんそうでもない。

新曲の仕組みは、リストを膨らませるためではなく、リストを生きたまま入れ替えていくために作りました。世代が変われば、共通言語も少しずつ変わっていくはずなので。

これからこのリストがどう育っていくのか、僕自身が一番楽しみにしています。セッションの現場で、一緒に味見をしてもらえたら嬉しいです。