「偽物」と言われたヒーリングが、病院に導入されている
信じられないかもしれないが、アメリカのトップクラスの病院の一部では、術前・術後のケアとして「レイキ」が提供されている。マサチューセッツ総合病院、ダナ・ファーバーがんセンター、クリーブランド・クリニック——これらの施設が、れっきとした医療環境の中にレイキを取り入れているのだ。
「手から何らかのエネルギーを流す」という行為。スピリチュアル界隈の話だと思っていた人には、少し驚きの事実ではないだろうか。かくいう私も、最初はそう思っていた一人だ。
レイキとは何か——起源とその原理
レイキ(霊気)は1920年代、臼井甕男(うすい・みかお)によって体系化された日本発祥のエネルギーヒーリング実践だ。「霊」は宇宙の普遍的エネルギー、「気」は生命エネルギー——この二つを合わせた言葉で、「宇宙の生命エネルギーを活用する」という概念が根底にある。
実践の基本は非常にシンプルだ。施術者が手を体の上またはごく近くにかざし、エネルギーの流れを整えることで、自然治癒力を高めるとされる。痛みを伴わず、薬も器具も使わない。ただ、手と意識だけ。
東洋医学の「気(Qi)」の概念、インドのアーユルヴェーダにおける「プラーナ」、中国の「经络(けいらく)」——異なる文化圏が独立してたどり着いた「生命エネルギーの流れ」という概念は、どこか普遍的な何かを指し示しているように思えてならない。
「でも、それって科学的に証明されてないでしょ」——前半の常識
ここまで読んで、こう思った人は多いはずだ。もっともな疑問だ。
確かに、「レイキのエネルギー」自体を物理的に計測した信頼性の高い研究は、現時点では存在しない。「手から出る特別なエネルギーが病気を治す」という因果関係を証明することは、現代の科学では難しい。
批判的な研究者たちはこう言う。「効果があるように感じるのは、プラセボ効果と、安心感や接触による自律神経の鎮静化に過ぎない」と。
それは、おそらく部分的には正しい。
でも実は——「プラセボ」と切り捨てられない理由
ここで視点が反転する。
気功とレイキを含むエネルギーワークの研究では、副交感神経の活性化——つまり「休息と回復」のモードへの移行が確認されている。心拍が安定し、血圧が緩やかに低下する。これは、単なる「気のせい」では説明しにくいデータだ。
2014年に発表されたレビュー研究(Journal of Evidence-Based Complementary & Alternative Medicine)では、レイキは痛みと不安の軽減において、偽(シャム)のヒーリングよりも有意な効果を示すケースがあると報告された。完全な決着にはほど遠いが、「ゼロではない」という積み重ねが増えている。
さらに興味深いのが「タッチの科学」だ。人間の皮膚には、穏やかな接触に反応するC触覚求心性線維(C-tactile afferents)と呼ばれる神経線維がある。これが活性化されると、オキシトシン(絆ホルモン)が分泌され、ストレスホルモンであるコルチゾールが低下することが知られている。
レイキの施術では、施術者は静かな意図と穏やかな手の動きをもって相手に向き合う。その行為そのものが、現代人が深刻なまでに不足している「丁寧に扱われる体験」を提供しているのかもしれない。
「なぜ効くか」の説明は変わっても、「何かが起きている」という事実は消えない。
セルフ・レイキという選択肢——日常に取り入れる
レイキには「遠隔ヒーリング」「自己ヒーリング」という実践もある。難しく考える必要はない。
試してみたいなら、こんなところから始めるといい。
基本のセルフ・レイキ(5分)
- 静かな場所に座り、目を閉じる。呼吸を3回、意識しながら行う。
- 両手をこすり合わせて温める。30秒ほど。手のひらに意識を向け、じんわりとした感覚を感じてみる。
- 両手を重ねて、胸の中央(胸骨)にそっと乗せる。ただそこにある手の温もりを感じながら、「今、この瞬間に在る」という意識だけを持つ。
- 気になる部位(肩、お腹、こめかみなど)へ手を移す。何かを「送ろう」とするより、ただ触れて、感じることに集中する。
この実践の核心は、「自分の体に意識を向ける時間を意図的に作ること」だ。それだけで、日常の自動操縦から一度降りることができる。
意図(intention)の力
レイキの実践で重視されるのが「意図」だ。施術前に「この人(または自分)の癒しと健康のために」と静かに心の中で思う。
神経科学の観点では、「意図を持つ」という行為は前頭前野を活性化し、注意・集中・共感に関わるネットワークを動員する。それがどの程度ヒーリングに影響するかは未解明だが、「意図する」こと自体が脳と神経系に何らかの変化をもたらすことは確かだ。
私たちが本当に求めているもの
レイキが世界中で支持され続けているのは、おそらく技法そのものだけが理由ではないと思う。
現代社会は、効率と速度と数値化の時代だ。診察時間は3分、通知は絶えない、体の声は後回しにする。そんな日常の中で、「あなたの体に、ただ丁寧に触れる」という行為は、それだけで深い意味を持つ。
レイキが「本当に機能するか」という問いに、まだ科学は完全には答えていない。でも、「何かを感じる人が世界中に存在する」という事実は、それ自体が探究する価値を持っている。
証明されていないことと、存在しないことは、同じではない。
手のひらに、今日の自分はどんな感触があるだろう。