うたの教科書
生涯にわたってきもちよく歌を歌い続けるための教科書です。
- 序章
- 歌は歌うものではなく、溢れ出すもの。
- なぜ歌うのか?
- 声の天敵はストレス
- うたい続けること。
- 第一章 発声の基礎
- 歌うことをシンプルに考える。
- 歌の基本要素
- 4つの要素は複雑に絡み合って、最後には一つになる。
- 第二章 声で遊ぼう
- 1.ウォーミングアップ & ストレッチ
- 2.声出し
- 3.リズム&応用テクニック
- 第三章 表現するために
- あなたは真似の集大成でしかない。
- たくさんの音楽を聞き、たくさんの歌手を真似る。
- 日常的にリズムを感じる。
- 感動の貯金こそが、表現の引き出し。
- 偏見を捨て、子供の心で感じる。
- 何がよいかはあなたが決める。
- 最終章
- うたい続けるために。
- 呼吸は人生全ての基礎。
- 運動する習慣もあればなおよし。
- 良いか悪いかではなく、合うか合わないか。
- 尊敬と感謝をわすれずに。
序章
歌は歌うものではなく、溢れ出すもの。
この教科書を読んでいただきありがとうございます。音楽家の吉田博と申します。いきなりですが、あなたに質問します。
あなたは何のために歌いますか?楽しいから?気持ちいいから?売れたいから?誰かに上手に聞かせたいから?上手だと思われたいから?何かを知らしめたいから?
歴史を見れば、歌はここで上げたような理由すべてで歌われてきました。単純な楽しみのためだけでなく、力を誇示するためや、戦う気持ちを鼓舞するため、異性を引き付けるため等、様々な理由が合ってよいと思います。
それを踏まえたうえで、あえてまた聞きます。
あなたは何のために歌いますか?
どんな理由が良いとか悪いとかではなく、それはとても大切なことだということをこれからもずっと心に留めておいてください。
なぜならそれこそが、あなたの歌が人に伝えられることのすべてだからです。
しかし、特に理由もなく口ずさんでしまう歌、つい誰かと一緒になって歌ってしまった歌、いい気持ちで出てきた歌。そんな理由も目的もない歌がありますね。そんな時に、音程がどうだとか、気になった事があったでしょうか??
そんな風に歌を歌いつづけられたら、どんなに素晴らしい人生でしょうか。しかしなかなか、そんな風にはいきません。
音程が..リズムが..声が..誰かにこういわれた..こういうのが流行ってるから..こうしなきゃ..
あなたの歌を誰かに聞かれた時から始まる、他者からの評価という精神的な呪縛。そして
なんか喉がくるしい..すぐに息が続かなくなる..声が枯れる..どうしても出ない音がある..思うように安定しない..
肉体的、技術的な不自由さからくる思い通りにいかないやるせなさ。そんな気持ちをどこかで経験したことはないでしょうか?
なぜ歌うのか?
さて、ここまであえて”歌わない理由”について考察してきたのには理由があります。なぜならそれはこの教科書を手に取ったあなたはこのどれかの気持ちに心当たりがあるのではないかとおもったからです。
つまり、何か目的のようなものがあってそれを達成したいけど思うようにいかない、でもそれでも歌いたい。という強い気持ちを持っている方なのではと思うのです。
それがどんな目的でも構いませんが、ここにたどり着いたというだけで、あなたは素晴らしい歌う心の持ち主であることは間違いありません。
どこかでだれかと歌った歌なのか、一人で歌い続けた大好きなあの歌なのか、わかりませんが、あなたが過去に経験した”歌うことって本当に素晴らしい”という感動の経験がなければ、ここにたどりつくこともないでしょう。
まずは、ただきもちいいから、感動したいから歌うんだという心構えを持ってください。
レッスンでは、もっとこうしてみよう、ああしてみよう、と、いろいろなことにトライする必要があります。
しかし人間は生理的に、新しいことにチャレンジするのは気持ちよくありません。今のままで生きられているんだから、このままでいいじゃないか、という潜在意識が常にあるのです。
そこに、きもちいいことがしたいだけなのにきもちわるいことをやらされる!!というジレンマがあり、練習がきらいになる...というのはよくある話。
だからこそ、壁にぶつかった時こそ思い出しましょう。ただきもちいいから歌うんです!!
声の天敵はストレス
僕は初めてボイストレーニングに行ったとき、どんな怖い先生に指導されるのかと恐る恐る行ったのですが、"声にはストレスが一番よくない。ストレスを感じるくらいだったらやらない方がましですよ"と言われたのがとても衝撃でした。
プロの指導をずっとやられてきた実績のある素晴らしい先生だったのですが、そんな先生からそのように言われてずいぶんと心が軽くなったことを覚えています。
実際、ステージで声が全くでなくなってしまったという例をいくつか聞いたことがありますが、全て大きな心理的ストレスが原因ということでした。
歌うことって、楽しさしかないですよね。本来そのはずなんです。でも、ボイストレーニングやレッスンに通うという時点で、何かそれ以上の目的や使命を背負ってしまいがち。
上達する喜びは僕もわかりますが、途中で挫折するほどの心の負担を感じてしまうなら、それはすでに何かが間違っています。
ストレスを解放するために歌うはずがストレスの原因になっている。悲しいかな、そういう"目的"を掲げることで、それが義務やタスクに変わってしまい、重荷になってやめてしまうという例はたくさんあります。
うたい続けること。
これは人生のあらゆることに共通する真理なので自信をもって言います。人生において、何かできるようになるために必要なことは”できるまで続けること”です。
壁にぶつかった時、どう乗り越えるか?ということも大切ですが、もっと大切なのは**壁を乗り越えるだけのエネルギー、モチベーションをずっと持ち続けることができるか?**という事です。
気持ちよくうたう、あなたが心の底から感動できる歌をうたうという目的からすれば、ずっと好きでい続けられること、ずっと歌うたっていたいなあと思い続けられることの方がもっと大切です。そうすれば自ずと、目的を達成しているはずですから。
僕は音楽をよく、サーフィンやスキーみたいなスポーツの感覚にとらえることがあるのですが、それは"自然の流れに力づくで立ち向かうのではなく、自然のエネルギーを活かしながら、その上を最小限の力で乗りこなしていく"ような感覚だと思っています。
そういう歌が歌えたらきもちがいいだろうな、というイメージが湧きましたでしょうか??体という物理的な乗り物を力づくでコントロールするのではなく、慣性の法則などをうまく利用しながら乗りこなしていくような感じ。
それはまさに、"自然との調和"なのではないかと。
そんな風に、バランスの取れた人生を歩んでいくために。何を目指すでもなく、ただ、きもちよく歌い続けることができたら、きっと幸せな人生なのではないかと思います。そしてそんな歌こそが、周りにいる人たちを本当に幸せな気持ちにさせてくれる歌なのではないでしょうか。
第一章 発声の基礎
歌うことをシンプルに考える。
声楽、ボイストレーニング、ボーカルレッスン、呼び方は様々でも、歌の指導方法も様々な流派やメソッドが出てきていて、情報が多すぎて時に混乱してしまう人も多いかもしれません。
きもちよく歌う、という目的からして、極限までストレスを減らそうと考えたとき、まず大切なのは余計な思考を取り除くことだったりします。
情報を次から次に追い求めて疑心暗鬼になったり、どこかで迷子になったり、結局正解がわからなくなったり。一生懸命、真面目に勉強する人に限ってそうなってしまって本質を見失うケースがあります。そんな時はまず、深呼吸してそっとスマホをおいてください。
この本では極力全てをシンプルに説明します。もしもっと詳しいことが知りたいという人は好きなだけもっと深い情報を調べてみてください。いくらでも情報はあふれています。しかし、まだまだ歌についてはわかっていないことが多いのも事実です。
僕も自分で本を買ったりネットで調べたり、習いに行ったり様々な事を勉強してきたのですが、実際に様々な人たちをレッスンを通して見させていただく中で、ようやくいろいろな知識が繋がり始めました。
僕が趣味としても、仕事としても様々なところで様々な歌を歌ってきた経験から、自信をもって伝えられることだけをまとめてお伝えするので、ここに書かれていることだけを頭に入れて、あとはとにかく自分自身の感覚を研ぎ澄ませて”きもちよさ”を追究すれば大丈夫です。
歌の基本要素
まず、音の三大要素 ①音の高さ、②音の大きさ、③音の音色と、音楽の三大要素 ①リズム、②メロディ、③ハーモニー から、歌の4大要素というのをこのように定義づけてみました。
- 音程
- 音量
- 音色
- リズム
もっと感情表現とか、言葉を伝える力とかいろいろあるのでは??というのはおいておいて、技術的にフォーカスのポイントをまずこれらに絞ります。なぜならこれらは歌の音楽としての良さ、つまり演説やセリフではない、歌であることの良さ、を体験するために必須の基礎だからです。
これらの4つの視点から、自分の歌を客観的に分析してみることができるだけでなく、誰かの曲を聞いたときに、この曲の何が良いのだろう?また、自分が歌ってみるときには何が難しいんだろう?と考えるためのフレームワークになります。
1. 音程について
歌の音程をとるために、知っておくべき知識を究極にシンプルに考えたならこれだけで大丈夫、と思える事があります。それは
裏声と地声を自由自在に使おう
ということです。これは歌う技術を習得するうえでの最大の難関であり、最終ゴールとさえ言えることなのですが、裏声と地声の使い分け、そして巷ではミックスボイスとも 呼ばれるような裏声と地声が混ざった声を自由に行き来できるだけの喉を完成させることができたなら、歌えない歌はない、とさえ言えるかもしれません。
とはいえ、絶対でもないですし、有名な歌手の方でもミックスボイス?何それ?という方もたくさんいらっしゃいます。
まずは、いきなりミックスボイスというようなことを考えるより裏声と地声を出しわけるということからやっていくのが良いでしょう。
2. 音量について
いわゆる声量です。声は大きい方が出世しやすいとか、意見が通りやすいということがよく言われますが、歌においても声が大きい方が得する場面というのは確かにあります。
しかし僕もあまり声の大きなタイプではなかったのですが、声の質やリズム、歌いまわし等を磨くことであまり声量を意識しなくても通用する場面が多かったです。
なので、声をどんどん大きくしたほうがいいんだ!!というよりは、最低限聞こえないようなレベルはクリアしつつ、自分の歌いたい歌のスタイルを表現するために必要な声量を安定して保ち続ける技術を身につけるという意識で考えると良いでしょう。
音量の安定、という意味で基礎として大切になってくるのが呼吸の仕方、体の支えです。これらはいわば歌の燃料なので、多すぎても少なすぎても苦しくなります。
3. 音色について
音色、声色というととてもバリエーションが広くて、ある意味一番深いポイントかもしれません。歌うテクニックとしていえる面に絞って言うなら声帯の閉鎖と,共鳴の作り方と言えるかもしれません。
声帯の閉鎖と言われてもピンと来ないかもしれませんが、尖った刺さるような地声と、息が多い包むような裏声、の両極のイメージはわかるでしょうか??これらは声帯の使い方としては正反対に近い状態で、前者は閉鎖が強く、後者は弱い状態です。
そして共鳴については、鼻腔共鳴や、体のどこかに響かせるというような考え方もありますが、シンプルに言うなら、口の中、喉の周辺の空間の開き方と考えられます。
たとえば喉仏を思いっきり上に上げて、日本のミッキーマウスのような声(伝わるかわかりませんが)を出したときと、口を最大まで開いて大あくびをしているときに出る低めの音の成分をたくさん含んだような声は、前者は尖って細い印象、後者は柔らかく太い印象になるのではないでしょうか??
実はこれら二つの例は密接な関係があるのですが、歌う技術という意味でいう声色の作り方というのはこれらの要素が非情に大切で、この要素が活舌や、母音による声の出しやすさの変化、さらには音程の取りやすさにもかかわってきます。
4. リズムについて
リズムは時間にそってどのタイミングでどんな音を出すかということですね。メトロノームの機械的なタイミングにきっちり合わせる、ということができるのは基礎として大切ですが、そのうえでどこにアクセントを置くかというようなことも大切。
そしてどこで息を吸って次のフレーズに備えるか、ということも歌においてはとても大切です。
実はリズムを体でとるという習慣をつけることで、脱力でき、呼吸もしやすくなり、自然なグルーヴのうねりを感じることができて自然にアクセントやノリも生まれてくるということがあります。きもちよくうたう、というコンセプトからして、このリズムの要素は実は全ての土台になっている重要な要素です。
4つの要素は複雑に絡み合って、最後には一つになる。
このように説明してきましたが、これらの要素をこれから何度も反復して、様々な角度から言っていきますので、覚える必要はありません。読み進めるうち、練習を続けていくうちに、あ、この要素が足りてなかったな、とか浮かぶようになるでしょう。
そして不思議なことに、これらは最後にはどれかだけが良くなってどれかはずっと悪いままといいうことはなく、複合的に絡み合いながら全体が良くなっていくのです。
音楽はひとつで、あなたが歌えるうたは一つです。余計な知識を入れすぎることによって、考えることが増え、変なことばかり意識してきもちよくうたう上で逆に障害になってしまうことが良くあります。
練習の時はいろいろな試行錯誤をしてみるのが良いと思いますが、いざ歌い始めたなら、また全てを忘れて初心を思い出してください。
ただきもちいいから、感動したいからうたうのです!!
ちょっと一言
日本の近代ポップスにおける歌の教育の歴史において、大きな流れとしてクラシックの声楽系からくる流れと、それをもとに発展したゴスペル系の流れ、そしてここ十数年のボイトレ?の文化を作ったアメリカ由来の流れがあるように思います。
その中でも細分化されたメソッドがあり、例えばフースラーメソッドや、US系で最近話題のベルティングなど、調べればたくさんのやり方や考え方があって、本気でやろうといろいろ調べれば調べるほど、いろんな考え方があって何が良いのか迷ってしまうの も当然。
僕も最初はいわゆるボイトレブームの先駆けともいえる、ロジャーラブ先生のハリウッドスタイルボーカルトレーニング、というベストセラー本で独自に練習を始めましたが、なかなかうまくつかめず、その後、先生に習ったり、違うメソッドを練習したりする上でだんだんと意味が分かってきたという感じです。
世の中には素晴らしい先生がたくさんいて、どの先生のどのメソッドも何かしらの効果があるので、偏見を捨てて、良いと思うところは取り入れ、自分なりの考えの軸を持ちながら自分のレッスンを組み立てています。
第二章 声で遊ぼう
さて、ようやく練習に入りましょう。ひとつの練習ルーティーンをご紹介します。これらはあくまでひとつのやり方で、幅広くみなさんに使ってもらえる練習で構成しています。
1.ウォーミングアップ & ストレッチ
[首回しストレッチ]
筋肉を伸ばすことを意識することで、血流を促すということも一つ良い要素だと思いますが、歌は喉頭周りの無駄な力を抜くことがとても大切になってきますので、その脱力という意味で、首の柔軟性を意識づける意味もあります。
[肩、肩甲骨回し]
歌う姿勢としてひとつ重要なポイントが、胸を開く、つまり肩甲骨が寄っている状態を意識することです。しかし、現代社会で生きていると姿勢がそれと逆の内向きに向かいがち。その状態をほぐして意識づけするために肩をゆっくり深く回してみましょう。
[腸腰筋ストレッチ&ブレス]
人の姿勢を保つ上でとても大切な股関節から腰に繋がる腸腰筋という大きな筋肉をほぐし、スイッチを入れていきます。この時なるべくみぞおちを前に出すような姿勢をとり、腰はそった状態になります。
呼吸はまず大きく息を吸ったときに、みぞおちが膨らむようにし、そこから細く長く息を吐きますが、みぞおちが膨らんだその状態はなるべくキープ。20秒以上持たせることを目標にしましょう。そしてこの後から声を出す時は、すべてその呼吸の意識でやっていきます。
息は吐かない、留めている状態から漏れてしまう感じ、細い息で良いので安定して長く持たせる。これが基本です。
2.声出し
[リップロール、軽い上下行]
まず、いきなり張り切って声を出し始めると勢いで喉に負担をかける場合があるので、徐々に慣らしていくという意味と、リラックス、声のチューニングという意味でリップロールから始めます。
リップロールは手軽なボイストレーニング方法としてとてもポピュラーになりましたが、喉への負荷が唇にも分散されるので、一日の最初の慣らしにも最適ですし、声を張り上げる癖がある人が広い音域にわたってフラットな息の量で声を出す意識づけをしていく上でも効果的です。このイメージでとても歌えるような気がしないかもしれませんが、特に裏声と地声のミックス音域付近では、このくらいの息の軽さが大切になってきます。
最初はリップロールをひたすらやるでも良いかもしれませんが、すこし慣れたら実際にあ、い、うというような母音でもやってみましょう。その時、いきなり声を大きく張らないで、小さな声でいいのでリップロールと同じ喉の感覚で、はじめてみてください。
裏声と地声のつながりの部分がより明確になると思いますが、そこをひっくりかえらないようにスムーズにつないで、最終的には小さい声でも"地声のような(ミックス的な)”感覚で上から下まで行けたらOKです。
[腹圧でアタック]
いわゆる、腹から声を出す練習です。先に出た呼吸法のとおり、息を吸ったあとみぞおちは膨らんだまま、さらにそこから”きばる、いきむ”ような力で声を一瞬だけ出すということを繰り返します。
声は出だしがとても大切です。出だしが悪いとその後から取り戻すことはできません。その歌いだしを練習している感覚です。まるで筋トレのように余計におなかをへこます必要はありません。きばる瞬間に声帯が自然に閉鎖するところとタイミングを合わせて声をだす、みたいなところをつかんでみてください。そうすると喉周りに力をいれて締めるような感じにしなくても、遠くに飛ばすような感覚で通る声をだすことができます。
[スケールで声出し]
ここからがいわゆるボイストレーニングらしいところかもしれません。跳躍する音階に合わせて色々な声の形で発声していきます。これらはアメリカのポピュラー音楽でよく使われているボイストレーニング方法を参考にしていますが、基本的には人それぞれの声に合わせて傾向別に内容を調整する必要があるものです。それぞれの説明を加えますので、自分のタイプを考えつつメニューに組み込んでいきましょう。
[ma]
生まれて初めて発する言葉が”ま”である事が多いのは何となく理解できるのではないでしょうか?お母さんの"mama"等に代表されるように、人間が一番口を閉じた状態から自然に脱力して声を発声したときに、”ま”が最も簡単であること等が原因の様です。
そんな意味で、ひとつの基準のような感じでmaの母音で喉や口回りをなるべくだらんと脱力した状態を保って発声してみましょう。
スケールの練習で問題になるのは音の高さですね。女子と男子それぞれでおおよその地声の限界、裏声の限界は同じだったりもするのですが、本当は人それぞれに合わせて設定しつつやっていくのがベターです。
[音域チェッカー]
ここではひとつの目安として、男子の地声レンジは 追記もしくはキーボード必要。
時間のない時はこれをしっかりと深くやるだけでも腸腰筋、横隔膜、背筋への意識が高まり、歌う上で必要な土台が目覚めてきます。
歌手によっては、歌う前に走りこんだりするくらい体を温める人もいるそうです。歌う前のルーティーンは人それぞれですが、自分の経験からいうとスポーツでいうゾーン(究極の集中状態)にはいれるような状態、つまり自律神経がどちらもバランスよく立ち上がった状態を作ることが大切だと思っています。体が燃え上って、興奮、緊張状態 にあるけれども冷静でリラックスしているような状態です。
なかなか言葉でいうほど簡単ではないですが、スポーツのパフォーマンスと同じで、音楽のパフォーマンスもそういう状態の時に究極に楽しく良い演奏ができると信じています。
[gu]
日常的に日本語でやらない動きとして、卵を飲み込むように喉を開いて下に下げるというのがあります。しかし、ほとんどのボーカルレッスンで、喉を開いて!!ということを言われることでしょう。
なぜ開くことが大切か?僕の解釈では、喉を開くことは裏声系の筋肉を動きやすくするという効果があるのだと思います。あくびをしたときに自然にでる"ふあーーー"という声を出してみると何となくわかるでしょうか?
あくびの動きをすると、鼻の奥の方や頭蓋骨まで緩んで開いているような感じがしませんか??その開きが裏声系の筋肉に大切。上の奥歯としたの奥歯がくっつかないように極限まで開いた状態、というのも、イメージに近いかもしれません。
喉を開く、というと上に上げたような裏声系の筋肉を稼働させるための開き、ともう一つ、喉頭を下に引き下げる開き、というのもあると思います。
僕はこの二つの動きを分けて考えると良いと思っていて、何故なら喉頭を下に下げるというのはサウンド的に声質がだいぶキャラクターのついた感じに(クラシック的な歌い方というか?)なるので、喉を開く=喉頭を下げる、ということでは必ずしもないと思っています。
そして、喉を開く=口を開くでもありません。口を開くと喉が開きやすいということはあると思うので、口を開くようにアドバイスすることはあるのですが、これもうたのスタイルによるので必須ではないと思います。
しかし、ボイストレーニングとして純粋にいろいろな筋肉を普段動かさない方向に動かすことによって、新たな声の出方を発見するということはとても有益なので、練習の中では意識的に限界まで口を開いてみたり喉を開いてみることが何かのヒントになることが多い、ということは覚えておいてください。
さて説明が長ったらしくなりましたが、ようやくこのguです。僕が最初によく売れているボイストレーニング本を買って練習したのがこれでした。
上記の説明を通して、意識するのは、喉を開くことも大切ですが、高い音になるほど喉頭を下げていく、というやり方も効果的で、とくに地声で高い声を張り上げてしまう癖がある人は、高い音になるにつれて喉を下げ、息も少なくするイメージでやると良いかもしれません。
あと、日本語の"ぐ"という音より英語のgoogleのgoogは深い響きで、そのイメージでやると"ごう"とかに近くなるかもしれません。
呼吸法も意識してやってみましょう。
[nei]
ミックス音域やさらに上の音域で、より強い閉鎖を作るためにすこし変な声ですが、ネイの発声というのがよくやられています。喉が上がりやすいので、張り上げてやってしまうと逆効果になるので注意です。
[nga]
顎を脱力し、舌根だけを動かすことで活舌の向上も意識した練習です。"ん"の音は必ず鼻にかかるのですが、"あ"の時は鼻にかかっていない状態を作ることを意識してください。そして、喉の開きを最大にすること、口を大きく開けてやるのも効果的ですが、逆に顎に力が入ってしまうパターンがありますので注意。
このんがの時の舌根の動きが、喉を開くという意味でも大切な動きになるので、ぜひ習得してください。
[gi]
"ぐ"の口の形で"ぎ"という、不思議な練習です。母音によって喉頭のポジションが変わってきますので、その中間を狙うような意図があります。
日本語でいうと、いえあおうの順番に喉頭の位置が下がってくる(奥にいく?)ような感じが何となく喉仏を触ってみるとわかりますでしょうか?
喉頭のポジションというのは地声系、裏声系の筋肉と密接にかかわっていて、非情にざっくり考えるならポジションが上がると地声系、下がると裏声系に寄りやすいと考えてよいと思います。
そのせいで、子の母音だとこの高い音が出しにくい!とかいう事が頻繁に起こっているわけです。
だから、この練習では一番下の"う"のポジションを保ちつつ、"い"の地声系閉鎖を狙う、つまりずっとミックスされたような声を狙って練習をするわけです。
これも力が入り始めるとどこかが崩れます。自分の喉頭の位置を注意深く感じながら、苦手な音など見つけていくのも良いでしょう。
[ba]
鼻をつまんで発声するやり方です。巷ではストローをつかって水をぶくぶくしたり、細いストローを使ってみたり、いろいろとあるのですが、これらは全部実は同じようなことで、口腔内の空気圧を逆流させることによって声帯の閉鎖を助けるような働きがあるそうです。
実際この鼻をつまんでバも、鼻から無駄な息が抜けていかないように、鼻声にならないようにという意味もありますが、喉への負荷が軽減されてミックス音域での閉鎖を助けるような効果をすぐに実感できる人も多いです。
鼻をつまんでいるせいで喉の開きが保ちにくくなったりするので、すこし広角をあげてみる等するとさらにミックス音域をつかみやすくなったりもします。
[hi]ねいに近い。
フースラーメソッドでは先ほどのネイに近いような声、裏声が閉鎖した声を下降させていく練習をよくやるのですが、限界まで下降したところでの閉鎖というのが、裏声系の土台の上で声帯を閉鎖するためのトレーニングになっていると考えられます。
これはそもそも歌える土台ではないので、効果が分かりにくいところもあるのですが、ひとつの伝統的な練習方法としてメニューに取り込んでも損はないと思います。
フースラーメソッドでは先ほどのネイに近いような声、裏声が閉鎖した声を下降させていく練習をよくやるのですが、限界まで下降したところでの閉鎖というのが、裏声系の土台の上で声帯を閉鎖するためのトレーニングになっていると考えられます。
これはそもそも歌える土台ではないので、効果が分かりにくいところもあるのですが、ひとつの伝統的な練習方法としてメニューに取り込んでも損はないと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=dvQPjHVENrg&t=0s
[メッサディボーチェ]
これさえできれば世界一の歌手になれる、とさえ言われたという?超絶地味だけど超絶難しい練習です。小さな裏声からはじまり、最大の地声に変化させてまた最小の裏声に戻るというだけ。しかしこれをひっくりかえらないようにきれいに出すのは至難の業です。
裏声と地声の切り替えというのは音が離れているほど簡単ですが、近づくほど難しくなり、同じ音というのが最も難しい。これができるということは小さな裏声からミックス、さらに最大の地声まで自由にコントロールできているということで、プロでもなかなか難しいとも言えるのではないでしょうか。
さて、ここに上げた練習はほとんどが4つの要素における、音程の要素に注目したものでした。やはり音程は誰もが気になるポイントなので注力したいところです。
[吸気発声]
3.リズム&応用テクニック
[ビブラート]
ビブラートを自然に習得している人も多いかもしれませんし、最近はあまりビブラートを大げさに使わない歌手も多いので、表現としては必須ではないと思いますが
先に上げた横隔膜での息の支え、呼吸法を身に着ける意味では、横隔膜の支えと音程の連動、みたいな感覚を感じていると音程のコントロールもとても楽になり、ビブラートのような早い音程の変化、そしてこれから上げるこぶし、フェイク的な動きの安定感 精度も変わってきます。
これはなかなか簡単にできるようにならないかもしれませんが、日常的に支えを意識しながらやっているとある日できるようになると思います。
[フェイク]
喉を脱力して早いフレーズをビブラートの感覚で歌います。演歌ではこぶしといわれたりしますが、世界各国、音楽スタイルごとに特徴的なこぶしがあって、それらはやはりなかなか簡単なテクニックではないので、お気に入りの歌手の歌を聞いて、まずはゆっくりからでも良いので丁寧に音程を聞き取り、真似てみましょう。
すべてそうですが、こつとしては力をいれすぎないこと。喉の力で細かく震わせるようなビブラートもスタイルによってはあるので、それが好きならそれでも良いと思いますが、僕は先に行った横隔膜での支えの感覚も連動している方が自由度の高い楽なビブラートができると思うので、おすすめしております。
[リズム]
実はすべての音源はリズムが刻んであって、これは何をやるときもどんな歌を歌う時もリズムを感じて欲しいからなんです。リズムは正確さだけでは測れない体の動きから生まれる力の波、そこに乗っかる感覚、押し引きみたいなものを自分でつかみとり、遊ぶようにどこかにアクセントを置いたりしているうちに身についてくるものだと思っています。
基礎的な考え方も身に着けておくべきですが、どうしても機械的にとらえているだけではリズムの心地よさ、楽しさがわからないので当然表現もできないとなりがち。
だからこれはあまり深く考えず、これらの練習をしている時にも常に何か体で感じながら、体をすこしでも動かしながらつかんでいってください。歌でメトロノームを使う練習というのはあまり一般的ではないですが、これらの音源はすべて規則正しいリズムにそっているので、ひとつの基準として、ずっと同じテンポを刻み続けるということを自然にできるように。
基本的には映像のように、にわとり的な動きで小さくリズムをとる方法をおすすめしていますが、2,4拍目の手拍子とか、足や膝で4分を刻み続けるとか、いろいろなやりかたもおすすめします。
[音符の基礎]
昨今では複雑なリズムの歌も多いので、ビジュアル的にもリズムをとらえておくのが良いと思います。苦手な方も多いかもしれませんが、音符の基本を学んで、リズムが分割されている感覚をとらえましょう。
主に16部のシンコペーション、3連等が難しいと感じやすいですが、慣れたらとても楽しく、かっこいいリズムです!
[見た目]
これはとても大切なことなので、あえてひとつの項目として取り上げます。もしいつかステージに立って歌いたいとすこしでも思っているなら、鏡があるところで、自分の目を見つめながら、練習してみてください。
自分自身がどんな姿勢で、どんな動きで、どんな顔をして歌っているか?ということを客観的に見れるというのもありますが、ステージに立った時の基本の目線を常に練習しておく、という意味でもおすすめです。
実際ステージに立った時に目線が泳いでしまって余計に緊張してくるというようなこともよくありますし、動きが不自然でぎこちないというのももったいない事になりますので、歌う時は自分の好きな歌手になりきっても良いですし、自分の世界観に浸りきってもよいので、自然な動きというのを常に模索しながら練習してみてください。
[歌う距離感]
遠くに向かって歌ってみて、というだけで、発声がすっとのびやかになることがあります。叫んでいる感じではなく、おーい、と呼びかけるくらいの気持ちです。人間は不思議なもので、空間的な状況によって声を無意識に調整したりしているんですね。だから狭い空間で大声をだしたり、遠くの人を呼ぶのに小さい声をだしたりするのは不自然なので、自然に声のスイッチがはいったりするんです。
一人で練習しているとなおさら、意識も狭く小さくなって迷子になりがち。そんな時はすこし窓の外でも見て、気持ちを切り替えるだけでも何か変わるかもしれません。
第三章 表現するために
あなたは真似の集大成でしかない。
昨今では個性が大切という教育方針のせいか、真似することをよしとしないような考え方もあるように感じます。しかしよく考えてみてください。人は誰もが、生まれたときは丸裸で何も知らない何物でもない存在ですが、親や周りの環境を見ながらそれを真似してようやく人間らしくなってきます。
オオカミに育てられるとオオカミのようにふるまってしまうという話のように、今いる自分の個性も全てそもそもは誰かの真似でしかないのです。それがたまたま、生まれた環境や時代の違いで少しづつ違ってきて、それが個性になるだけ。ある意味、ただ生きているだけで人は十分個性的で、それ以上の個性を求める方が不自然とさえ思います。
それでは、歌手として特別であるために何が必要でしょうか?まずは、先に上げたように、歌の歌としての良さを最大限に引き出せること、つまり自分の作りたい表現を作るために4つの要素を思い通りに使い分ける技術が土台です。
その上で、声質、細かい表現等は、いろいろな人から良いと思うところを盗んで、自分のものにして行く必要があります。
20年以上音楽をやっていても、人の曲を聞いて分析してみると新しい発見やアイデアをたくさん感じることができます。学ぶというのはまねぶ、つまり真似をするということから来ている言葉らしいですが、一生かかっても学びが終わることはないし、学ぶことで自分の中に新鮮な興味、喜びを見出しながら、ずっと歌うこと、音楽をすることを続けていけるのだと思います。
たくさんの音楽を聞き、たくさんの歌手を真似る。
一般的にモノマネが否定されがちな理由として、明らかに誰か一人の個性を真似していることが見えてしまうと、どうもモノマネだと言われがちになりますね。
特定のアーティストがとても好きで、どうしてもその感じになってしまうというのはよくあることですし、人は中学校2年生、つまり14歳くらいの時に聞いた音楽を一生ひきずってしまうという話もあるように、若いころに聞いた物が一番自分のスタイルの基礎になっていて、そこからなかなか離れられないということもよくあります。
武道で"守破離"という言葉がありますが、まず真似する、しかも徹底的に真似して型を体に覚え込ませる。そしてその基礎ができてからそれを崩すことを試み続ける。最後にはそこから独立して自分の道を歩む。
そんな考え方が、芸術の道においても有効です。やはり偉大な先人たちが長い年月をかけて築き上げてきた、こういう風にすると感動できる音楽になるよ!という型を全く知らずに一人で一から築き上げるのは至難の業だし、誰かがすでに見つけているものをまた一から自分で見つけるところから始めなければいけなかったりして、時間の無駄になることもあります。
そんなわけで、歌うスタイルに関しても自分の好きな歌手、こんな風に歌えたらなあと思う歌手の曲をよく聞いて、そっくりに歌えていると自分で思うまでいろいろ試行錯誤を重ねながら練習してみましょう。なんなら、それだけをずっとやり続けていればそれなりに歌手としてやれるようになるというくらい、真似ることが一番の練習であり、究極です。
しかし、どうしても出来ないということも多々ありますね。そういう時に、こういった教科書であるとか、レッスンが力になると思います。
日常的にリズムを感じる。
日本は諸外国とくらべると踊るという文化も少ないですし、現代のポピュラー音楽でよく聞かれるバックビート系ではなく頭乗りがDNAにしみついている国民性もあって、なかなかリズムにのるという感覚がつかめない人が多いように思います。
勘違いしてほしくないのは、これはリズム感がわるい、ということではなく、文化の違い、習慣の違いなのです。頭乗りが一番しっくりくるなら、頭乗りの音楽ばかりやっていれば良いのですが、なぜかそうもいかない難しいリズムの曲も普通に流行ったりするのが日本の面白いところ。
日本語の特性からしても、いわゆるタテノリのロックみたいな曲だと、言葉も乗りやすしリズムにものりやすいのですが、ひげだん、金ぐぬーのようなブラックミュージック系の16分的なノリが入ってくるととても難しくなる人が多いのではないでしょうか?
特に、裏のリズムをとるということが苦手な人が多いので、脱力して、裏を感じながら揺れてみる、というようなことを日常的にやってみることをおすすめします
アメリカのポップス、K-POP等はかなりそういった要素が多いので、そういう音楽も聞いて体を揺らしてみるうちに、何となくノリが分かってくるのではないでしょうか。
感動の貯金こそが、表現の引き出し。
歌に感動した経験、音楽に感動した経験はありますか?自分が歌っていても、人がうたっていても同じですが、自分が心の底から感動した経験、というのがあなたの目指す表現のゴールになると思ってください。
もちろん、もっともっと上の感動を体験することがあるかもしれませんが、自分が体験した感動というのは強く体と心に残っているので、いつでもそれを基準に何かを評価していくことになるからです。
なので、よりよい感動を得るということも音楽を続けていく上での大きなモチベーションにもなり、指針になる貴重な体験です。動画を見るだけでも良いですが、是非現場に足を運んで、体験してみることでいろいろなイメージが鮮明になり、自分自身をそこに投影しやすくもなります。
偏見を捨て、子供の心で感じる。
物事を少し勉強すると、つい分析的だったり批評的な目で何かを見てしまったりします。しかし最初は違和感や嫌悪感を抱いたことを好きになったりすることも良くあるし、そういう物こそ自分がみにつけるべき何かを持っているから嫉妬心が湧いていたりすることがあります。
日本ではうたというと短歌だったりする歴史もあるように、言語的に音楽を理解しようとする傾向が強いせいで、体で感じるより先に頭を使ってしまうという傾向もある気がしていて、それがリズムの感覚をとらえにくくしているところもあるのかもしれません。
発声、音程についても、特に正解を追いかけがちで、ジャストなポイントをねらって力がはいるというようなイメージがありますが、実は脱力して流れにゆだねる方が大筋で外れないということが良くあったり。
指導したりしているとここに大いに矛盾があって悩ましいところですが、こういうやりかたもあるね、というアドバイスが、こうあるべきに変わってしまいがちな傾向がある人たちは、まず自分の感覚を信じて、自分の感覚がきもちいいと思う方向に体を持って行く感覚で、遊ぶように歌ってみてください。
何がよいかはあなたが決める。
これもレッスンあるあるですが、言われたことを絶対として、そこを基準に良い悪いと判断してしまうと、永遠に学びはつきないわけですから、永遠に自信がもてないというパターンに陥ります。
ステージに立った時、何を信じて聴衆に自信をもって歌いかけますか?だれかが言った、この曲が流行ってるらしいよ?という言葉ですか?はたまた先生が言った、こういう風に歌うといいよ。ですか??
おそらく、自信というのはそこからは生まれません。誰かの価値基準でジャッジしているうちは、永遠に正解もなければ到達もないのです。ステージで表現するのは他でもないあなた、あなたが心の底から良いと思えるものしか、そこで究極の自信をもって表現できることはありません。
練習のうちは色々な意見を取り入れてみるのもよいでしょう。しかし最後には自分が全ての責任を背負い、自分の基準で、自分の価値観で、自分のパフォーマンスを全身全霊でやる以外にないのです。だったら普段から、常に自分自身に問いかけ続けてください。
今のは気持ちよかった!今のはなぜか泣きそうになった!今のは心が解放できた!
そういう感覚が聴衆に伝わるだけだと思います。
最終章
うたい続けるために。
なぜ歌うのか?という問いを最初に掲げ、最後まで読んできていただいた皆様、本当にありがとうございます。最終章は歌うことよりもっと大切な、生きることについて。
うたの本で壮大に生きることを語る本も珍しいとは思いますが、歌うことは生きることそのものだと思っていますので、せっかくここまで読んでいただけたのなら最後まで読んでいただければ幸いです。
昨今ではストレスの多い時代になり、うつ等の精神疾患も頻繁に聞かれるようになりました。心身ともに健康であり続けるということが歌う基礎として大きく声に影響していることは間違いなく、ちょっとしたバランスでそれが壊れてしまうのもよくわかります。
プロ志向の方から趣味の方まで幅広くレッスンなどさせていただいてきて思うことは、目的意識を持ちすぎることがストレスに繋がって、本来ストレスを発散すべき歌うという行為が苦痛になるという、悲しさでしかない結末が一番いやだし、本末転倒以外の何物でもないということ。
だからこそ、目標は楽しくつづけることだけだなと。ゆっくりでもつづければ、うまくもなるし、ストレスもなくなるし、誰かと歌う機会も、誰かと触れ合う機会もできていいこともある。
歌うことは最初は恥ずかしいかもしれませんが、だからこそ人の前で全てをさらけ出す経験になって、心が解放される。どうしても殻にこもりがちになる現代で、素の状態に戻るという意味でも、上手か下手かというような価値基準を抜きにして、声を出して歌うということは素晴らしい事です。
呼吸は人生全ての基礎。
実はボイストレーニング業界でも様々な流派や考え方があって、昔よく言われていた腹式呼吸、というような呼吸法を否定し、呼吸については何もしなくてよい、という考え方も存在します。
実際僕もそのように考えていたこともあったのですが、様々な事を勉強していく中でやはり、歌うレッスンの中に呼吸を取り込んだ方がよいと思った理由は、呼吸が人生全ての質にかかわる重要な要素だと気づいたからです。
人間はもろいもので、自分の感情をコントロールすることがとても難しいですよね。心と体はつながっている、とはわかっていても、実際に体で心をコントロールする方法ってあるんでしょうか??
その方法が呼吸です。緊張したときに深呼吸するというように、呼吸を意図的に遅くしたり早くしたりすることで、古来から人間は感情までもコントロールするすべを模索してきたんだと思います。
それがヨガだったり瞑想だったりするのかもしれません。僕が先に提案した歌う時の横隔膜の支えの呼吸法が、日常の呼吸法として有効かどうかはわからないのですが、少なくともゆっくり長く息を吐く、という行為が、瞑想やヨガでも基本になっているのは間違いないようなので、その習慣を取り入れていくことが何らかの精神的安定にも繋がると信じています。
そもそも歌うことは、吸うのは一瞬、声を出すのはより長くなる傾向が強いので、それがそもそもの呼吸法の修行みたいになっていて、歌はまさに”呼吸の芸術”とも言えるますね。
運動する習慣もあればなおよし。
激しいダンスや歌を歌う歌手の中には、歌う前に走りこんだりするという人もいるようで、そのくらい体全身が立ち上がって目覚めた状態になっていることが声の出方に影響するという事実があります。
なので歌うことは口や喉周りだけの問題ではなく、全身を通した連動が大切なのは間違いないのですが、自律神経のバランスも声の完成に大きくかかわっている。
となるとやはり、現代では運動が不足しがちなので何かしらの運動習慣がある方が良いと経験的にも思います。気持ちも前向きになりますし、運動は"運"を動かすと書くように、運動している事で活動的になり、良い運を切り開く事に繋がることも。
しかし、毎日のようにおもいきり歌える環境がもしあれば、それを続けることでかなりのカロリーを消費できる運動になると思いますので、そういったやり方もありかもしれませんね。
いわゆる腹筋が歌に良いのか?といいうような話もいろいろありますが、経験的には体幹系のトレーニングは腹圧を高めて横隔膜の支えをサポートできる気がしていて、効果があると思います。腹直筋というよりはスクワットだったりプランクだったり、腸腰筋のストレッチを長時間耐えるというのでもかなり効果的です。あとは日本のしこ踏みも様々な面でよい運動になります。
良いか悪いかではなく、合うか合わないか。
あらゆることの判断基準として勘違いしてはいけないのは、根本的に芸術には正解がないし、勝ち負けもなければ、絶対的なものがないという点が素晴らしいところです。
なので、優劣というのはあくまで、自分が求めている方向や価値観に対してどうか、ということでしか測れません。
逆を言えば、誰かほかの人の価値観、社会一般的な価値観も、人つの尺度でしかなく、 絶対的なものではないので、それに自分が合わないからと言って自己否定的になる必要はありません。
何かを良い悪いで判断してしまうと、そのあたりをごっちゃにして辛くなりがちなので、常に自分に合うか合わないかで判断し、逆に自分も他人から合うか合わないかで判断されていると考えて見ましょう。
例えていうなら恋愛もそうですね。世間一般的に何かが優れているからといって、自分に合う相手かわからないですし、世界で一番何かが出来るからといって良いパートナーに巡り合うかわかりません。
性格、雰囲気、見た目、能力、そもそも出逢う可能性があるかないかという、タイミング、そういった要素が全部含まれているのがこの”合うか合わないか”という考えかたです。
そして、不思議なことにあなたの価値観と合うという方は結構いたりするものです。
尊敬と感謝をわすれずに。
最後に、音楽をやっていく中で一番大切なことをお伝えしたいと思います。先に、音楽は一人で完結することはほとんどない、ということをお伝えしました。
音楽とは調和であり、それはまさに先に書いた"合わす”芸術です。それは誰かと誰かの演奏を合わせることでもあり、自分と聞いてくれる人の心を合わせることでもあります。
つまり、合わせるということが出来なければ、音楽はできません。これは絶対に忘れてはいけないことです。音楽は常に、自分以外の何かと"合わせているものなのです"
すこし経験があったり、自分の方が力が上だと思ったり、自分だけが気持ちよく演奏できれば良い、自分だけが目立てれば良い、という考え方はやはり合わなくなりますし
逆に自信がなさすぎたり、準備が足りなすぎたりすれば、周りの演奏についていけないということになります。
常に、何かと合わせていく上で大切なのは、相手に対する尊敬と感謝の気持ちです。それは人生のあらゆることに通じることですが、そこからしか人は気持ちを合わせることができません。
あらゆる状況において、尊敬と感謝の気持ちがあれば自ずと、それを無下にしたくないという気持ちが芽生え、準備もするようになりますし、相手も必ずそれを汲み取ってくれます。
努力は報われない、という考え方もありますが、長年いろいろな事を経験してきて、不思議なことですが、”やったらやっただけのことは必ず人に伝わっている”といつも感じていますし、レッスンをしていても、練習してきたなということはすぐにわかります。
たとえ小さな機会でも大切に、一つ一つ”きもちよく”やっていくことができたら、ずっと楽しく音楽を続けていけるのではないでしょうか。
最後になりましたが、インターネット上にたくさんの素晴らしい歌手の方々やボイストレーナーの方々の有益な情報が溢れている中、この文章を読んでいただいた皆様本当にありがとうございます。
まだまだ言い足りないこともありますが、皆様が楽しく、気持ちよく歌い続けるために、音楽を楽しみ続けるために、ささやかでもお力添えできていれば幸いです。
さあ、歌い続けましょう!