作曲の教科書

音楽の「しくみ」がわかると、1曲のコピーが12倍のアイデアになる。

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序章

作曲って、特別な才能?

「作曲」と聞くと、なんだか特別な才能を持った人だけができることのように感じませんか?

楽譜が読めないとダメ。ピアノが弾けないとダメ。音楽理論を知らないとダメ。そんなイメージがあるかもしれません。

でも、ちょっと思い出してみてください。

お風呂で鼻歌を歌ったことはありますか?そのとき、知っている曲をそのまま歌うのではなく、なんとなく適当なメロディを口ずさんだことはないでしょうか。

それ、作曲です。

もちろん、それを「曲」として完成させるには、いくつかの知識や技術が必要になります。でも、メロディを生み出すという行為自体は、誰もが自然にやっていることなんです。

この教科書で伝えたいこと

僕がこの教科書で伝えたいのは、音楽理論の全てではありません。

伝えたいのは、音楽の「しくみ」がわかると、世界が変わるということ。

僕自身、長い間「コピー」をしていました。好きな曲を聴いて、耳で覚えて、弾いてみる。それはとても楽しい作業でした。

でもある時、「キー」という概念を理解した瞬間、目の前がパッと開けた感覚がありました。

あ、この曲とあの曲、同じ動きをしてる。

それまでバラバラだった点と点が、線でつながり始めたんです。1曲コピーすると、12曲分のアイデアになる。さらに構造を理解すると、それが何倍にも広がっていく。

この教科書では、その「気づき」の体験を共有したいと思っています。

理論は道具、目的じゃない

音楽理論は、道具です。

料理で言えば、包丁やフライパンのようなもの。使い方を知っていると便利だけど、それ自体が目的ではない。

大切なのは、あなたが何を作りたいか、何を表現したいか。

理論を学ぶことで音楽がつまらなくなってしまったら、本末転倒です。だからこの教科書では、最低限の「しくみ」だけを伝えます。

あとは、あなた自身が音楽の中で発見していってください。自分で気づいたことは、一生忘れません。

第一章 音の「高さ」の世界

カラオケでキーを変えたこと、ありますか?

カラオケに行ったとき、「この曲、高すぎて歌えない」と思って、キーを下げたことはありませんか?

あるいは、「低すぎるから上げよう」とか。

ボタンを押すと、曲全体の高さがグッと変わる。でも不思議なことに、曲自体は同じに聞こえる。メロディの「形」は変わらない。

これ、当たり前のようで、実はすごく大事なことなんです。

同じ曲なのに、高さが違う

男性アーティストの曲を女性が歌うとき、たいてい高さが違いますよね。逆もそう。

でも、聴いている人は「同じ曲だ」と認識できる。

なぜでしょう?

それは、音と音の「関係」が同じだからです。

メロディが上がる、下がる、どのくらい上がる、どのくらい下がる。その「動き」のパターンが同じなら、高さが違っても「同じ曲」に聞こえる。

これが「キー」の本質です。

12の世界

ピアノの鍵盤を思い浮かべてください。白い鍵盤と黒い鍵盤が並んでいますね。

1オクターブの中に、鍵盤は12個あります(白7つ、黒5つ)。それが高さを変えて繰り返される。

つまり、音楽には12種類の「高さの世界」があるということ。

カラオケでキーを1つ上げると、その12の世界の中で、隣の世界に移動しているんです。メロディの「形」はそのまま、世界だけが変わる。

キーを変えるってどういうこと?

「ドレミファソラシド」というメロディがあったとします。

ピアノの白鍵だけで弾けますね。

では、これをカラオケでキーを上げるみたいに、「ミ」の音から始めてみたらどうなるでしょう?

「ミ」から同じ間隔で音を並べていくと…黒鍵も使うことになります。

これが「キーを変える」ということ。使う音は変わるけど、音と音の「間隔」は同じ。だから同じメロディに聞こえる。

ドレミを「数字」で呼ぶ

でも、ちょっと困ったことがあります。

「ミ」から始めた世界でも「ドレミファソラシド」と呼ぶと、混乱しますよね。どっちの「ド」の話?ってなる。

だから、数字で呼ぶことにしましょう

基準の音を「1」、そこから順番に「2, 3, 4, 5, 6, 7」。こうすれば、どのキーでも同じ言葉で話せます。

「ド」から始まる世界でも「ミ」から始まる世界でも、「1から始まって2に上がる」と言えば、同じ動きを指せる。

ちなみに、この「間隔のパターン」で並んだ音のことをスケールと呼びます。そして「ド」を基準にした明るい響きの世界をCメジャー、「ミ」を基準にした世界をEメジャーと呼びます(Cはド、Eはミの英語名)。

第二章 コード進行という「道」

コードは「道」

メロディが「旅人」だとしたら、コード進行は「道」です。

どんな道を歩くかで、旅の印象は大きく変わります。まっすぐな道、曲がりくねった道、上り坂、下り坂。音楽も同じで、コード進行によって曲の「景色」が決まるんです。

そして、この「道」には、よく使われる定番ルートがあります。

数字でコードを呼ぶ

コード(和音)には、明るい響きのものと暗い響きのものがあります。

明るい響きのコードを「メジャー」、暗い響きのコードを「マイナー」と呼びます。

面白いことに、スケールの各音を基準にしてコードを作ると、自然と明るくなる音と、暗くなる音が決まっているんです。

  • 1, 4, 5 → 明るい響き(メジャー)
  • 2, 3, 6 → 暗い響き(マイナー)

これが「そのキーの中で自然に使えるコード」です。

「ド」を基準にした世界(Cメジャー)の場合:

  • 1 = C(明るい)
  • 2 = Dm(暗い。mはマイナーの略)
  • 3 = Em(暗い)
  • 4 = F(明るい)
  • 5 = G(明るい)
  • 6 = Am(暗い)

定番のコード進行

よく使われる進行をいくつか紹介します。

王道進行(4-5-3m-6m)

J-POPで最も使われている進行。切なくて、でもどこか力強い。

世界定番(1-5-6m-4)

世界中の何千もの曲で使われている超定番。

同じコードでも、始まる場所で印象が変わる。キーを変えても「形」は同じ。これを覚えておくと、曲のバリエーションが広がります。

第三章 ループで歌う

R&Bの発想

ここまで理論的な話をしてきましたが、正直に言います。

今歌ってるメロディが、キーの中のどの音か?なんて、僕も今でもわかってません。

そこを理論的に分析する必要はないんです。大事なのは、コード進行を数字で捉えること。そして、その進行の上で、とにかく歌ってみること

アメリカのR&Bのアーティストがやっている方法です。4小節のコード進行をループさせて、その上で延々とフレーズを歌う。いいメロディが出てきたら、それを採用する。

理論的に「このメロディは何度」なんて考えない。気持ちいいか、気持ちよくないか。それだけ。

実際にやってみよう

下のプレイヤーで、好きなコード進行を選んでください。キーを変えても「形」は同じ。自分の声に合うキーを探してみてください。

コードを順番に押しながら、その上で何か歌ってみてください。

最初はぎこちなくても大丈夫。繰り返すうちに「この流れにはこういうメロディが合う」という感覚が自然と身についてくる

コピーの魔法

好きな曲をたくさんコピーしていくと、あることに気づきます。

あれ、この進行、あの曲でも使われてた…

そう、音楽には「よく使われるパターン」があるんです。

数字で捉えたコード進行は、12のキーすべてで使えます。つまり、1曲のコード進行をコピーすれば、12キー分の「道」が手に入るということ。

10曲コピーすれば、120パターン。100曲コピーすれば、1200パターン。

そして、その一つ一つの「道」の上で、何通りものメロディを歌える。可能性は無限大です。

第四章 ビートに乗る

グルーヴが先、メロディは後

ここで、もう一つ大事なことを伝えます。

メロディは「頭」じゃなく「体」から出てくる。

リズムに乗って、体が動いて、その勢いでメロディが生まれる。逆に、じっと座って頭で考えても、いいメロディはなかなか出てこない。

だから、まずはビートを流す。体を揺らす。その状態でコードを弾いて、歌う。

ビートプレイヤー

ビートを再生してみてください。BPMやパターンを変えられます。

ビートが流れている状態で、下のコード進行プレイヤーを使ってみましょう。

好きなタイミングでコードを押して、その上で歌ってみてください。

勢いで作ったものの方が伝わる

不思議なことに、勢いで作ったものの方が、聴く人に伝わるんです。

完璧に計算して作った曲より、ノリで録った一発録りの方が心に響く。そういう経験、ありませんか?

いい歌を歌っている時は、本人が一番気持ちいい。だからその気持ちよさが人に伝わる。

理論は後からついてくる。まずは気持ちよく歌えるかどうか。それを大事にしてください。

第五章 「降りてくる」ということ

何百曲も作ってきて気づいたこと

僕は作家として、これまで何百という曲を作ってきました。没になったものも山ほどあります。

でも、振り返ってみると面白いことに気づくんです。

採用になったり、すんなり通った曲は、なぜかすんなりできていた。

自然にできすぎて、作ったことすら覚えていないものもあります。

体の中に染み付いているものが、自然に出てきた。そういうときに、自然で美しい流れになっていることが多いんです。

考え抜くことも、学び

もちろん、これは難しいところで。

あえて意図的に、何か引っかかりのような部分を作った方がいい、という人もいます。そういうタイプの作家さんもいると思います。

考えて考えて、「これでよい!」と思えるまで突き詰めること。それも人生の中では、一つの学びの期間として必要だと僕は思っています。

でも、大体において、アドリブのようにスラスラ出てきたものの方が、何か特別なものになっている。いわゆる「降りてきた」というものになりやすい。これは僕の経験上、強く感じることです。

体に染み付くまで

じゃあ、「降りてくる」ためには何が必要か。

まず、何よりインプットをたくさんして、それが体に染み付いていること。

作曲の場合は特に、多くの場合はピアノかギターだと思いますが、たくさんのコード進行パターンをコピーして、たくさん歌ってみること。これに尽きます。

だんだんとそのコード進行が体に染み付いてきて、曲を聴いただけで「これはあの進行だな」とわかるくらいになってきたとき。おそらくあなたも、その進行であなたなりのメロディを歌えるようになっているでしょう。

考えすぎているなら

「考えすぎてしまう」という状態。

そもそもその状況に陥っているという時点で、何かが間違っている可能性も高いんです。

あるいは、それを解決するためのインプットを、まだあなたが持っていないだけ、ということも大いにあります。初期は特にそうです。

だから、とにかくコピー、コピー、コピー

オリジナリティは、その後からでも勝手に出てきますので。

第六章 モノマネから始める

オリジナリティの正体

「オリジナリティを出したい」

作曲を始めた人がよく言う言葉です。僕もそう思っていました。

でも、オリジナリティって、出そうとして出るものじゃないんです。

どれだけ真似しても、真似できないまま残ってしまうものこそが、あなたのオリジナリティ。

だから、最初から「自分らしさ」を探す必要はない。むしろ、徹底的に真似をする。好きなアーティストの曲を何十曲もコピーする。その過程で、勝手に個性は生まれてくる。

徹底的にやる

曲を作ったりする上でも、誰かみたいな曲を作りたいと思ってその場で真似しようとすると、だいたいとってつけたようになって不自然になります。

じゃあどうするか。

徹底的に暗記するまで、その人の曲をたくさん覚えるのです。

表面的に真似するんじゃなく、骨の髄まで染み込ませる。そうすると、意識しなくても自然とそのエッセンスが出てくるようになる。

でも同時に、完全には真似できない部分も出てくる。そこがあなたのオリジナリティです。

インプットの量がアウトプットの質を決める

これは、音楽だけじゃなくて、どんな創作にも言えることです。

インプットの量が、アウトプットの質を決める。

たくさん聴いて、たくさんコピーして、たくさん歌う。その蓄積が、あなたの中で化学反応を起こす。

だから、「何も浮かばない」と思ったときは、インプットが足りていないのかもしれない。新しい音楽を聴いてみる。違うジャンルに手を出してみる。

そうすると、また新しいアイデアが生まれてくるはずです。

おわりに

これから先へ

ここまで読んでくれて、ありがとうございます。

この教科書で伝えたかったのは、理論の全てではありません。

「数字で考える」という視点を持つだけで、音楽の見え方が変わる。

グルーヴに乗って、考えすぎないで、手を動かし続ける。

徹底的にコピーすれば、個性は勝手についてくる。

あとは、あなた自身が音楽の中で発見していってください。好きな曲をコピーして、数字に置き換えて、パターンを集めて。そのうち、自然と自分だけのメロディやコード進行が生まれてくるはずです。

音楽を楽しんでください。