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仮歌の仕事から学んだ3つの大切なこと。

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Hiroshi Yoshida

2016-03-14

裏方系の歌の仕事として、バックコーラス等とともに誰もが通る道として、レコーディングの仮歌、というのがあります。僕もメジャーアーティストのコンペに提出するための仮歌をたくさんやった時期がありました。その経験から思うことをいくつか。

1.誰かにディレクションしてもらいながら歌うのは歌のレッスンを受けるのと同じくらいいい経験になる。

作家さんのレベルにもよると思うのですが、それなりに活躍されている作家、アレンジャーさんなどの仕事で仮歌をやると、その指示から大切なことをたくさん学べます。

歌詞の世界観までこだわるような人は、やっぱりキャラクターの設定などで感情の入り方が変わるので、そういった細かい心情までイメージで伝えたりもします。

サビは地声っぽいほうがいいのか、息の多いミックスボイスっぽいほうがいいのか、割れるくらい叫んだほうがいいのか、そういう使い分けを要求されたりするので、やったことがないことでも現場でなんとかやってみる、そして意外とできたり、できなくて悔しかったりする、そんな経験がとてもいいんです。

リズムに微妙に合いにくい部分とか、アクセントをどこに持ってくるとか、言葉の聞こえづらいところとか自分だけでは気づかないようなところをいろいろと客観的に聞いて判断してもらえるので、勉強になります。

あとはハモりの作り方なども作家さんによってそれぞれこだわりがあったりして面白いですね。最近は主メロだけ歌ったらあとはソフトで作っておくよーという人も多くて、歌手的には助かるんですが・・本当に裏方のプロを目指すなら、ささっとコーラスも録り終えられるくらいのスキルが欲しいですね。 裏方のプロなら、スピード感はとても大切です。でもそこはあくまで裏方をやりたい人だけですが。

レコーディングは慣れないと精神的に不安定になってドツボにはまってどんどん悪くなったりするもの。十分練習して体に入っている状態でのぞめる場合ならいいのですが、仮歌系の仕事は急に来て、聞く時間もなかったり、現場によってはその場で聞いてはい歌ってみて、という感じだったりもします。

そういう状況に対応できるようになるのは、単純に慣れだと思いますし、初心者にいきなりそんなハードルの高い仕事を振ることはあまりないでしょうが、そこに慣れていくことでプレッシャーのある現場でもマイペースで心を乱さず対応できるようになりますよ。

2.仮とはいえ、自分の歌がちゃんとした作品になった形で聴けるので、向き不向きやキャラクターがよくわかる。

やっぱり、何でもかんでも歌ってハマるシンガーの人というのは少なくて、大人っぽい曲が似合う人、明るいアイドル曲が似合う人、ロック系が合う人、R&B系が合う人というのがどうしても出てきます。歌い方によってコントロールできるような人は大したものだと思いますが、そもそもその歌を歌うアーティスト本人もそんなに器用じゃないことが多いので、キャラクターを押し殺してまで不得意なジャンルをやれるようになる必要はあまりないと思いますよ。

あくまで自分がどういう曲調に向いているか、どういう感じならいい感じに歌えるかということの参考になるという感じでしょうか。

あとは真似したことのないアーティストの歌い方を意識して歌ってみたりすることもあるので、そうやっていろいろ試行錯誤するきっかけにもなります。まあ、どこまでやっても真似しきれないところはあるんですがw

3.可能性はとても低いが、業界の人にいろいろと聞いてもらえるのでそこから何かつながる可能性も??

何を隠そう、僕が最初に作曲で楽曲提供させてもらった西野カナさんの曲は、最初仮歌歌ってくれない?という話から始まったんですが、ディレクターさんが僕の歌を気に入ってくれたのもあって、なんならフェイクとかメロデイーも作ってみて、ということになってどんどん広がっていったものなんです。

そこに至るまでにも、久保田利伸さんの現場でコーラスをやっていた経緯があったからこそ誘っていただけたのですが、仮歌から作曲につながるというケースは、R&B系のトラック先行で共同制作(Co-Write)をするようなジャンルだと、結構あり得る話なのではないでしょうか??

本当にいろいろなレベルの作家さんがいるので、できればそれなりに実績がある人についてやっていれば業界につながれる可能性も上がると思いますが、まだまだ実績のない作家さんでも情熱とセンスがある人ならいつか大物になる可能性が大いにあるので、同じように情熱を持っていい歌を提供しましょう。

そして、仮歌シンガーは作家さんに一回気に入られるとずっと続くけど、そうでないと続かないもの。一回一回本気でやるのはもちろんですが、続かなかったからといってアーティストとして落ち込むことは全くないですよ。声が個性的すぎたり、歌に癖があったりするとどうしてもメジャーアーティスト向けのコンペには馴染みにくいと思われてしまいます。でもむしろ、アーティストとしてはそういう個性も必要ですから、あまり裏方的な器用さばかり身につけるのもどうかと思います。

最後に、お金について。仮歌系のお仕事は正直、それだけで生活しようと思うとつらいくらいの金額が相場です。それなりにギャラが数万もらえて大きなスタジオでちゃんとした仮歌を録音するなんてのはほんの一部だけで、最近ではコンペ用のデモの仮歌なら家で録音してデータだけ送りますという人も多くて、そういう人で1曲1コーラス¥2000〜という感じ。そんな人がたくさん出てきている中で、あえてそこをやろうと思うなら、勉強のため、チャンスをつかむため、という意思がないときついと言えるでしょう。

いろいろと大変そうに書きましたが、きっと世界が広がると思うのでチャンスがあればぜひ仮歌の仕事にチャレンジしてみてください。

LIVEARTISTのレッスンでも興味があればアドバイスします!